こんな気持ち知りたくなかった
ねえ、どうして。
叶わないと知りながら、ちょっとだけ夢を見たりするのだろう。
全部分かっていたのに、一パーセントの可能性なんかに賭けて期待したりしていたんだろう。
私は、救いようのないバカだ。
あの春から、全部全部、決まっていた未来だというのに。
クリスマス、私は全てを突き放した。
親友の涙を見てしまったあの日。
きっとその日、私はずっと手に入れたかったものを手に入れることが出来ると思っていた。
幸せになれる予感がした。
それがはずれだったとしても、彼がクリスマスに待っていてくれることが、何より嬉しくて。
最後まで迷ったけれど、でもやっぱり行くしかないと、そう思ってしまって。
でも、彼の名を叫びながら泣いている親友を偶然にも発見してしまった私には……突き放すという選択肢以外に、選択の余地がなかった。
私はこの想いを封印して、ただひたすらに二人を応援しようと思った。
それは私が辛いだけかもしれないけれど、大好きな二人が幸せの道を歩むことが出来るなら……それはそれで、自分の幸せに変わっていくんじゃないかと、そう思えるような、気がして。
ああ、でも。
自分の家の、自分の部屋に戻ってみたら、さっきの決意なんて見事に崩れ去る。
「何でよ……」
ぽつりと呟くと、ぽたりと雫が零れ落ちた。
外にいればひたすら気を張っているから、油断することなんてなかった。
泣いたりすれば周りから変な目で見られるし、我慢するしかなかった。
でも、ここには誰もいない。
私がここで泣いても、誰もそのことを知る人なんていない。
「私だって、」
あまり大声で泣いても迷惑だから、声を殺して泣いた。
時折泣き言を口にして。
彼を好きなのはあんただけじゃないんだって思いながら、結局一人惨めに諦めようとしている自分が一番情けなくて、カッコ悪くて。
もっと早く。もっと早くに諦めていれば。
それこそ、クリスマスまで長引かせず、春の段階で諦めていれば。
接触することを拒んでいれば。
仲良くしなかったら、私は……今、泣いたりしなかったんだろうか?
全てをなかったことにするのは、辛いと思う。
バイト先で顔を合わせたり、一緒に旅行へ行ったり、体育祭で手を繋いで走ったあの日のことも……みんな大切で、大切で。
辛く悲しいこともあったけれど、それと同じかそれ以上に幸せで楽しいこともあって。
幸せも不幸せも全部、全部私の宝物であり思い出なんだ。
「……どうしよ」
突き放した私はどうすれば。
次に顔を合わせたとき、どんな態度をすれば。
普通どおりの態度を取れるんだろうか。
底抜けに明るく、バカで子どもみたいないつもの私になれるんだろうか。
その夜、泣き疲れて眠るまではずっと泣き続けた。
たくさん泣き言も言った。
ただひたすらに、悲しみの海に飲まれた。
たくさんの「もしも」を考えた。
もしも、親友の涙を見なかったら。
もしも、彼が今日あの場所にいなかったら。
もしも、二人に出会っていなかったら。
考えても無意味であることは分かっているのに、止まらなかった。
無意味なことでも、気が済むまで考えたり、吐き出したりした。
そして、最後に考える。
私はどうやったら、彼と幸せになれるのかを。
それこそ、無意味であることに気付くこともなく……。
ああ、私は。
最終的に辿り着いた結論は、静かに幕を下ろす、ということだった。
「痛いよ、すごく」
今までだって、好きな人の一人や二人いたはずで、あっさりと心変わりを繰り返してきたというのに……ものすごく、胸が痛かった。
誰もいないこの場所で慰められるのは、自分しかいなくて。
私は孤独を味わいながら、ただひたすらに雫を零した。
知らなかったよ。
恋がこんなにも切なくて、苦しいものだったなんて。